野山に分け入って草木を摘み、植物が蓄えてきた色を導き出して糸を染め、その糸で革を縫い上げる。作品の素材である革は、植物タンニンなめし革を採用。端の端まで使い切るため最後はマグネットや画鋲へと最小サイズまで形を変えなるべくゴミが出ないよう素材を大切に使って作品作りを続けている。
「ここで暮らすようになってから必然的に自然との共生や繋がりを考えるようになりました。作品でそういうことを表現するようになったのもここにきてからです。生活水の一部は沢の水。洗濯やお風呂の水はそのまま沢に流れてしまうので、使う洗剤やシャンプーにも気を遣います。cinqueのシャンプーは自然にも優しいと聞いたので、我が家でも使えそうです。自分のケアと自然への気遣いが同時にできるのも、嬉しいですね。またこの場所は四季の移り変わりを肌で感じられて、美味しくて綺麗な水と木々に囲まれたこの場所は環境としてはパーフェクト。自然を壊さず、きちんと還る、そしていい香りで気分が上がる理想的な生活用品がもっと増えるといいですね」
作品作りにおいて最初の頃は、自分が作りたいものを作ってきたと話す竹沢さん。ここに移り住んでからもの作りにおいてもまた、自然との共生を考えると同時に、地域のことも深く考えるようになった。
「結構動物が出るので、隣町から、鹿や猪の革を使って何かできないか?というお話をいただいて革の有効利用を始めました。その革でものを作り、販売して、売り上げの一部を猟師さんらに還元しています。ほかにも私が染めた糸を編み物やもの作りをしている友人や作家さんに託して、作品を作ってもらうことも始めました。自分の作りたいものだけでなく、いろんな人を巻き込んで地域だからこそのものを生み出していけたら、そして活性化できたら理想です。また動物愛護をはじめ、いろいろな考えがある時代ですが、地域独自の考えや手段で、共生していく方法を考えることも大事なんじゃないかと思っています」
何かに使えそう、面白いからとりあえず買ってみる。そうやって竹沢さんは日本各地の古道具屋を巡って蒐集する。作風にも現れているように、機械的に作られた物よりも温もりのある手作りのものや、朽ち果てる前の段階のもの、錆びているものが、ただ好きだから。だからあえて作る作品に加工はしない、シンプルに作って買った人の手と時間によって変化していくその過程を楽しんで欲しい。彼女が作っているものとこの場所と、ここに在るものがぴったりハマった。
「作業台にしているテーブルは、昔修道院のキッチンの作業台として使われていたもの。古道具屋さんで購入したのですが、もともとステンレスの板が貼ってあったものを剥がして売られていた。包丁をいれられる収納が付いていたり、今はそれをちがう用途で使っている。時代とともに、形を変えながら、使う人も変わりその役割も変わっていく。そうやって受け継がれていくもの、そこにあるストーリーが好きなんです。そうやって買い集めたものと真鍮や革を組み合わせて新しい作品作りも考えています。試験管を使って作った一輪刺し、貼ってある板は青森の海岸沿いで拾った板。もしかして雪駄だったんじゃないかなという形。そうやって考えたり、想像させるということに面白みを感じています。展示会で自分が在廊している時、作品の説明やそのストーリーをお話するのがすごく楽しい。何に見えますか?とか。人から見たらゴミかもしれないけど、手を加えたら、新しい何かに変わる。今後そういうものを増やしていきたいなとは思います。」
竹沢さんは、人の手が加わったもので何か新しいものを生み出すというよりも、今あるものを再生させる、利用することで新しくする方向を目指している。本当に良いものはどんなに時が経っても魅力が褪せないこと、有名無名は関係なく、日常にある美しいものを見つけることの大切さを胸に、作品に新しいストーリーを吹き込んでいく。
竹沢むつみ/たけざわむつみ 1983年、東京都八王子市生まれ。専門学校ヒコ・みづのジュエリーカレッジ卒業。レザークラフトとアクセサリーを制作する作家として活動。作品の屋号である「salikhlah(サリヒラフ)」は、モンゴル語で「風が吹く」という意味。